マンション防水工事の“あの臭い”はいつまで?原因と対策、健康への影響まで正直に解説します

お住まいのマンションで大規模修繕や防水工事が始まると、廊下やベランダからツンとした独特の臭いが漂ってくることがあります。窓を開けて気持ちよく換気をしたいのに、かえって室内に臭いが入ってきてしまう。洗濯物を外に干していいものか、臭いがついてしまわないかと迷うこともあるでしょう。


工事があるのは仕方がないと頭では分かっていても、「このシンナーのような臭いの正体は一体なんだろう?」「いつまで我慢すればいいのだろう?」という疑問や、「小さな子供やペットがいるけれど、体に害はないのだろうか?」といった健康への不安が頭をよぎるのは、当然のことです。


特に、工事のアナウンスはあっても、臭いについて詳しい説明がないと、住民の方々の不安は募るばかりです。漠然とした不安は、その正体や全体像、そして見通しが分からないことから生まれます。


ここでは、防水工事の経験が豊富な専門家の立場から、皆さんが感じているその臭いの原因から、期間の目安、そしてご家庭でできる具体的な対策まで、一つひとつ正直に、そして分かりやすく解説していきます。正しい知識を持つことで、きっと落ち着いて工事期間を乗り切るためのヒントが見つかるはずです。




ズバリ、臭いの正体は「溶剤」。でも、なぜ必要なの?

多くの住民の方の頭を悩ませる、あの独特で刺激的な臭い。その正体は、ズバリ、防水材を構成している成分の一つである「有機溶剤」です。一般的にシンナーと呼ばれるものに近い成分で、それが空気中に広がることで、私たちは臭いを感じます。では、なぜこのような臭いのする材料を使わなければならないのでしょうか。それには、丈夫で長持ちする防水層を作るための、大切な理由があるのです。



なぜ「溶剤」が必要不可欠なのか?

マンションの防水工事で最も多く採用される「ウレタン防水」を例に考えてみましょう。この主役であるウレタン樹脂は、本来、非常にドロドロとした粘り気の強い液体です。もし、このまま塗ろうとしても、硬くて均一に伸ばすことができません。

そこで活躍するのが「溶剤」です。溶剤には、このドロドロのウレタン樹脂を一時的にサラサラの液体状にして、職人がハケやローラーで塗りやすくする、いわば「うすめ液」のような役割があります。このおかげで、複雑な形状の場所でも隅々まで均一な厚さの防水層を作ることができるのです。

そして、塗り終えた防水材が硬化していく過程で、この「うすめ液」の役割を果たした溶剤だけが空気中に蒸発(揮発)していきます。この蒸発のタイミングで、あの独特の臭いが発生するというわけです。現状、高品質な防水層を作るためには、この溶剤の働きが非常に重要なのです。



気になる健康への影響は?

「溶剤」と聞くと、健康への影響が心配になりますよね。もちろん、高濃度の溶剤蒸気を長時間にわたって吸い続けることは、頭痛や吐き気を引き起こす可能性があり、決して体によいものではありません。

しかし、マンションの防水工事は屋外の風通しの良い場所で行われるため、室内での塗装作業などとは異なり、溶剤の濃度が危険なレベルまで高くなることは稀です。また、施工業者は労働安全衛生法などの国の基準に則って安全管理を行っていますし、使用される建材も、健康を害する化学物質の放散量に関する厳しい基準をクリアしたものがほとんどです。

とはいえ、化学物質に敏感な方や、小さなお子様、呼吸器系の疾患をお持ちの方、そして体の小さいペットなどがいるご家庭では、より一層の注意が必要です。過度に心配する必要はありませんが、正しい知識を持って、適切に対策を講じることが大切になります。




で、結局いつまで臭うの?臭いが強くなるタイミング

臭いの正体や健康への影響が分かったところで、皆さんが次に知りたいのは「この臭い、一体いつまで続くの?」という点だと思います。ご安心ください。工事期間中、ずっと同じ強さの臭いが続くわけではありません。実は、防水工事の工程の中で、臭いが特に強くなる「ピーク」の日というものが存在します。それを知っておくだけでも、心構えが大きく変わってきます。



臭いのピークは「プライマー」と「防水材」を塗る日

一般的なウレタン防水工事は、いくつかのステップに分かれており、臭いが発生する工程は限られています。


1. 下地処理(高圧洗浄・ケレンなど)

まず初めに行う、古い防水層を剥がしたり、汚れを落としたりする作業です。この段階では、大きな音が発生することはあっても、溶剤系の臭いはほとんどありません。


2. プライマー(下塗り)塗布

ここが最初の臭いのピークです。下地と、この後塗る防水材を強力に接着させるための「プライマー」という液体を塗る工程で、このプライマーに溶剤が含まれているため、強い臭いが発生します。


3. ウレタン防水材(中塗り・上塗り)塗布

ここが臭いの最大のピークとなります。工事の主役であるウレタン防水材を塗るタイミングで、最も多くの溶剤が使われるため、臭いも一番強く感じられます。通常、この作業は2回に分けて行われます。


4. トップコート(保護塗装)塗布

仕上げに、紫外線などから防水層を守るための保護塗料を塗ります。これにも溶剤が含まれているため臭いはしますが、ピークは越えていることがほとんどです。



臭いが続く期間の目安

臭いのピークとなる塗装作業は、天候さえ良ければ、それぞれの工程につき1日程度で完了します。塗った直後が最も臭いを強く感じますが、溶剤が空気中に蒸発していくにつれて、臭いは徐々に和らいでいきます。風通しや気温、湿度といった条件にもよりますが、一般的には塗装作業が終わってから2~3日もすれば、日常生活に支障がないレベルまで臭いは落ち着くと考えてよいでしょう。

つまり、工事のお知らせに「ウレタン防水 中塗り作業」といった記載があれば、その日とその翌日あたりが臭いの山場だと予測できます。逆に、雨天で作業が中断・順延されると、断続的に臭いが発生する期間が長引いてしまうこともあります。




今日からできる!住民側の対策と注意点

工事中の臭いのピーク時期が分かっていても、ただ我慢するだけというのは辛いものですよね。ここでは、住民の皆さん一人ひとりが、少しでも快適に工事期間を乗り切るためにできる、具体的な対策や注意点をご紹介します。簡単なことばかりですので、ぜひ試してみてください。



臭いを室內に入れないための基本対策

まず、最も基本的で効果的なのが、臭いを室内に入れない工夫です。


・窓をしっかり閉める

工事のアナウンスがあった日は、工事を行っている側の窓は必ず閉めましょう。風向きによっては、反対側の窓を開けていても臭いが入ってくることがあるので、注意が必要です。


・換気扇・24時間換気システムを止める

これは意外と見落としがちなポイントです。特に気密性の高いマンションでは、キッチンや浴室の換気扇を回すと、その負圧で外の空気を室内に引っ張り込んでしまいます。臭いが強い日は、換気扇の使用を一時的に控えましょう。同様に、24時間換気システムも、可能であれば一時的にオフにするか、設定を一番弱くすることをお勧めします。


・洗濯物は室内干しに

塗装作業が行われる日は、外に干した洗濯物に臭いが移ってしまう可能性があります。残念ですが、その日は室内干しに切り替えるのが無難です。



特に配慮が必要なご家庭での注意点

ご家族の状況によっては、特に注意が必要な場合があります。


・小さなお子様やペットがいるご家庭

お子様やペットは、大人よりも化学物質に対して敏感なことがあります。体の不調をうまく言葉で伝えられないため、周りの大人が気をつけてあげることが大切です。臭いの強い日は、なるべく工事現場から離れた部屋で過ごさせたり、可能であれば日中は公園や児童館、ショッピングセンターなどで過ごしたりするのも一つの手です。


・アレルギー体質や呼吸器に持病がある方

化学物質に過敏な方や、喘息などの持病をお持ちの方は、事前にかかりつけの医師に相談しておくと安心です。また、管理組合や施工業者に「持病があるので特に配慮してほしい」と事前に伝えておくことで、情報共有などの面で配慮してもらえる場合もあります。


・気分が悪くなってしまったら

万が一、臭いで頭痛や吐き気などを感じた場合は、無理をせず、すぐに新鮮な空気が吸える場所に移動してください。もし窓を開けるなら、工事現場から最も遠い位置の窓を開け、短時間で換気しましょう。症状が改善しない場合は、管理会社や施工業者に連絡するとともに、医療機関の受診も検討してください。




「我慢して」だけじゃない。ちゃんとした業者が行う“臭い対策”とは

住民の皆さん自身で行う対策には、やはり限界があります。そこで重要になるのが、工事を行う施工業者が、どれだけ住民の生活に配慮してくれるか、という点です。住民への配慮ができる優良な業者は、「工事なので我慢してください」で終わらせるのではなく、臭いを軽減するために様々な工夫を凝らしています。これは、管理組合が業者を選ぶ際の、非常に重要な判断基準にもなります。



材料選びでの配慮

まず、使用する防水材そのもので対策を講じることができます。


・低臭・低溶剤タイプの防水材を選ぶ

近年の技術開発により、従来品よりも溶剤の含有量を大幅に減らした「低臭タイプ」や「低溶剤タイプ」と呼ばれる防水材が登場しています。コストが少し割高になる場合もありますが、住民の方々の負担を大きく軽減できるため、こうした材料の提案をしてくれる業者は、居住者への配慮が行き届いていると言えるでしょう。


・特定化学物質を含まない材料を使う

シックハウス症候群の原因の一つとされるトルエンやキシレンといった特定の化学物質を含まない、「特定化学物質障害予防規則(特化則)」に該当しない材料を選ぶ業者も増えています。これは、住民の皆さんの健康へ配慮している証拠です。



工事の進め方での配慮

材料だけでなく、工事のやり方にも配慮が見られます。


・丁寧な事前告知の徹底

「何月何日の何時頃から、どの場所で、臭いの出る作業をします」といった具体的な情報を、事前にチラシなどで詳しく知らせてくれることは、最も基本的な配慮です。臭いのピークが正確に分かれば、住民も洗濯や換気の計画を立てやすくなります。


・工事時間帯への配慮

多くの人が在宅している平日の早朝や夕方の時間帯を避け、日中の9時から15時頃に塗装作業を集中させるなど、時間帯へ配慮してくれる業者もいます。


・換気・送風による臭気の拡散

塗装作業中の廊下や階段の踊り場などに、大型の扇風機(送風機)を設置し、臭いがこもらないように強制的に外部へ排気する対策です。地味に見えますが、こうした一手間が、臭いの軽減に繋がります。


これらの対策は、すべて業者側の「住民の生活をできるだけ妨げない」という姿勢の表れです。管理組合の立場で業者選定に関わる際は、ぜひ見積もり金額だけでなく、こうした臭い対策への考え方や実績についてもしっかりと質問してみてください。


どんな種類の防水工事があるかを知っておくことも、業者との対話に役立ちます。

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臭いの不安は「知る」ことで軽くなる。大切なのはコミュニケーション。

ここまで、マンションの防水工事で発生する臭いの正体から、期間の目安、そして具体的な対策までを一緒に見てきました。工事期間中の臭いは、多くの住民の方にとって不快なものであり、不安を感じるのも当然です。しかし、その正体が何で、いつ頃がピークなのか、そしてどう対処すればよいのかを「知る」だけで、先の見えない漠然とした不安は、大きく軽減されたのではないでしょうか。


そして、この問題で最も大切なのは、住民、管理組合、そして施工業者の三者間での、円滑なコミュニケーションです。


住民の方は、不安なことや困ったことがあれば、一人で我慢せずに管理組合の役員の方に相談してみてください。管理組合は、そうした住民の皆さんの声を丁寧に吸い上げ、代表として施工業者に改善の要望などをしっかりと伝える役割があります。そして、本当に信頼できる施工業者は、そうした声に真摯に耳を傾け、専門家としてできる限りの対策を講じてくれるはずです。


防水工事は、一時的に私たちの生活に不便をもたらしますが、マンションという大切な資産を守り、住民全員がこの先も長く安心して暮らしていくためには、避けては通れない重要なメンテナンスです。これを単なる「我慢の期間」と捉えるのではなく、住民と管理組合、業者が一体となって建物を良くしていく「共同作業」と考えることができれば、きっと見え方も変わってくるはずです。


工事が無事に終わり、きれいになった建物を見たとき、「みんなで協力して乗り越えたね」と皆で思えるような、そんな大規模修繕になることを心から願っています。


もし、これから修繕を計画される上で、より専門的な意見を聞いてみたくなった時は、専門の会社に相談してみてはいかがでしょうか。

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