【写真で解説】マンション屋上の防水の種類、どう見分ける?専門家が教える3つのチェックポイント

New

マンションの管理組合の理事や修繕委員に就任された方が、まず最初に直面する素朴な疑問。それは、「うちのマンションの屋上は、一体どんな防水工事がされているのだろう?」というものです。竣工時の図面や、10年以上前の大規模修繕工事の記録がすぐに出てくれば良いのですが、資料が整理されていなかったり、担当者が変わって詳細が分からなくなっていたりするケースは、決して珍しくありません。


この「種類がわからない」という状態は、実は長期修繕計画を進める上で、見えない足かせとなります。専門業者に相談しようにも、現状が不明確では話が進めにくく、複数の業者から見積もりを取っても、前提条件がバラバラで比較のしようがない、といった事態に陥りがちです。


マンションの防水層の種類を知ることは、人間ドックで自分の体の状態を把握するのと同じくらい、重要な意味を持ちます。それは、適切な修繕計画を立てるための「現在地」を知る行為に他なりません。現在地が分かって初めて、どの工法が最適か、どれくらいの費用がかかるのか、といった未来への正しい道のりが見えてきます。この記事では、専門家でなくてもご自身のマンションの防水の種類を推測できる、いくつかのヒントをご紹介します。




なぜ、防水の種類を知る必要があるのか?

「防水の種類が分からなくても、結局は専門の業者が調べてくれるのだから、任せておけば良いのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、最終的な判断は専門家が行いますが、管理組合の皆様ご自身が、事前に防水の種類を把握しておくことには、実は大きなメリットがあります。ここでは、その主な理由を3つご紹介します。



理由1:次の改修工事の方法が大きく変わるから

防水工事の改修には、既存の防水層の上から新しい防水層をかぶせる「かぶせ工法」と、一度剥がしてから施工する「撤去工法」があります。どちらを選ぶかは、既存の防水層の種類や劣化状況に大きく左右されます。例えば、既存がアスファルト防水の場合とウレタン防水の場合では、その上にかぶせられる工法の選択肢や、接着の相性が異なります。自分たちで種類を知っておけば、なぜ業者がその工法を提案するのか、その理由を深く理解でき、より主体的に工事に関わることができます。



理由2:業者からの提案を正しく比較検討できるから

複数の業者に見積もりを依頼した際、もし業者ごとで既存防水層の見立てが異なっていたらどうなるでしょうか。当然、提案してくる工法も金額もバラバラになり、何を基準に比較すれば良いのか分からなくなってしまいます。事前に「うちの屋上はおそらくシート防水だろう」という当たりをつけておくだけで、各社の提案が妥当なものか、あるいは見当違いなものでないかを判断する「物差し」を持つことができます。明らかに異なる見解を示す業者がいれば、その理由を詳しく聞くなど、より深い比較検討が可能になるのです。



理由3:日常的なメンテナンスのヒントになるから

防水層は、その種類によって劣化のしやすい箇所、つまりウィークポイントが異なります。例えば、ウレタン防水であれば、紫外線から防水層を守る「トップコート」の劣化具合が寿命を左右します。一方、シート防水であれば、シート同士の「つなぎ目」の剥がれが最も注意すべき点です。自分たちのマンションの防水の種類を知っておくことで、日常的な点検の際にどこを重点的に見れば良いのかが明確になり、劣化の初期サインを見逃さずに済む可能性が高まります。




【セルフチェック】防水の種類を見分ける3つのポイント

専門家でなければ正確な判断は難しいものですが、いくつかの分かりやすい特徴を押さえておけば、ご自身のマンションの屋上防水がどの系統の種類なのか、ある程度の推測は可能です。もし屋上に立ち入る機会があれば、ぜひ以下の3つのポイントに注目してみてください。



ポイント1:「つなぎ目(継ぎ目)」の有無

これは最も分かりやすく、基本的な見分け方です。防水層の表面を広く見渡してみてください。


「つなぎ目」がある → シート防水 or アスファルト防水の可能性

シート状の材料を貼り合わせて施工するため、シートの幅(通常1m程度)ごとに、必ず線のような「つなぎ目」が存在します。等間隔で直線的な線が見えれば、まず間違いなくこのどちらかです。


「つなぎ目」がない → ウレタン防水の可能性

液体を塗って仕上げるため、原理的に「つなぎ目」は存在しません。プールのように、全体が一体となったシームレスな面になっているのが特徴です。



ポイント2:表面の色と質感

つなぎ目の有無と合わせて、表面の様子を観察すると、さらに種類を絞り込むことができます。


ウレタン防水: 色はグレーやグリーンが多く、表面はツルッとした塗料のような質感です。歩くと、ゴムのような少し柔らかい弾力を感じることがあります。


アスファルト防水: 表面を保護するため、黒い防水層の上に、細かい砂や石粒がびっしりと付着していることが多いです(砂付ルーフィング)。色は砂の色であるグレーや、緑色の石粒などが見られます。歴史の長い建物では、黒いアスファルトがにじみ出ていることもあります。


塩ビシート防水: ウレタン防水と似た色合い(グレー、グリーンなど)ですが、質感はより硬質で、プラスチックシートに近い印象です。つなぎ目部分が熱で溶かして接着(熱融着)されているため、少し盛り上がって筋状になっているのが特徴です。



ポイント3:排水口(ドレン)周りの処理

屋上の雨水が集まる排水口(ドレン)の周りは、各工法の特徴が非常によく現れる場所です。


ウレタン防水: 排水口の縁の立ち上がり部分まで、液体で塗り込まれているため、一体化して滑らかな仕上がりになっています。


シート防水・アスファルト防水: 排水口の形に合わせてシートが切り抜かれ、貼り付けられています。そのため、シートの切れ目や、排水口専用の部材(改修用ドレン)が取り付けられているのが見て取れます。




セルフチェックの限界と、プロの診断が必要なケース

前述した3つのポイントは、防水の種類を推測する上で非常に有効なヒントとなります。しかし、これだけで全てのマンションの防水層を完璧に見分けられるわけではありません。特に、過去に修繕工事が行われている場合、見た目だけでは判断が非常に難しくなるケースが数多く存在します。安易な自己判断は、かえって混乱を招く可能性もあるため、セルフチェックの「限界」についても知っておくことが重要です。



ケース1:トップコートで「化粧直し」されている

最も判断が難しくなる一般的なケースが、防水層の一番上に、保護用の塗料である「トップコート」が塗り重ねられている場合です。トップコートは、既存の防水層が何であれ、その上から塗装できてしまいます。例えば、元々は黒いアスファルト防水だったとしても、その上にグレーのトップコートを塗れば、見た目はウレタン防水と区別がつきません。表面はつなぎ目のない滑らかな仕上がりに見えるため、「これはウレタン防水だ」と判断してしまいがちですが、その一枚下には全く違う防水層が隠れている、ということは頻繁にあります。



ケース2:複数の工法が組み合わされている「複合工法」

特に大規模なマンションの屋上では、場所によって工法を使い分けている「複合工法」が採用されていることがあります。例えば、雨風にさらされる広い平坦な部分は耐久性の高いアスファルト防水で施工し、人の出入りが多く、形状が複雑な階段室の周辺だけウレタン防水で仕上げる、といったケースです。この場合、屋上の一部だけを見て「このマンションはウレタン防水だ」と全体を判断してしまうと、大きな間違いにつながります。



ケース3:度重なる「部分補修」で原型がわからない

築年数が経過した建物では、過去に何度も部分的な補修が繰り返されていることも珍しくありません。例えば、雨漏りが発生した箇所にだけ、応急処置として異なる種類の防水材がパッチワークのように塗られている、といった状態です。このような場合、元の防水層が何であったのか、どこまでがオリジナルの層でどこからが補修跡なのか、見た目だけで判別するのは専門家でも困難を極めます。


これらのケースでは、表面的な観察だけで防水の種類を断定することはできません。正確な現状を把握するためには、やはり専門家による詳細な調査が不可欠となります。




正確な判断は、やはり専門家の「診断力」が鍵

セルフチェックではどうしても判断がつかない、あるいは複合的な要因が絡み合っていて確信が持てない。そのような時こそ、専門家の出番です。プロは、私たちが表面から見るのとは全く異なる視点と方法で、防水層の正体と健康状態を正確に見抜いていきます。その「診断力」こそが、適切な改修工事を行うための、最も重要な土台となります。



プロはどう見抜く?表面だけではない調査方法

専門家は、単に目で見るだけでなく、五感を使い、時には専門の機材も駆使して診断を行います。まず、防水層の表面を直接手で触れ、その弾力や硬さ、劣化の度合いを確認する「触診」。そして、専用のハンマーなどで表面を軽く叩き、その音の響き方で下地との密着度や浮きの有無を調査する「打音検査」を行います。

そして、最も確実な方法が、管理組合様の許可を得た上で、防水層の一部(数cm角)をカッターでめくり、その「断面」を直接観察する方法です。防水層が何層になっているのか、過去にどのような修繕が施されてきたのか、内部に水は廻っているのか。断面を見れば、その防水層が経てきた歴史まで読み取ることができます。もちろん、切り取った部分は、調査後にきちんと補修するので心配はいりません。



「診断力」がもたらす最適な修繕計画

正確な診断は、単に防水の種類を特定するためだけに行うのではありません。その真の目的は、建物に最適な修繕計画を立案することにあります。例えば、大規模修繕を専門とする月島仮設工業のような会社では、特定した防水層の種類とその劣化状況、さらには下地コンクリートの状態までを総合的に評価します。その上で、なぜこの場所が劣化したのかという根本原因まで推測し、次の10年、15年先までを見据えた、最も合理的で無駄のない工事内容を検討するのです。この「診断力」の差が、最終的に工事の品質と、長期的なライフサイクルコストに大きな違いを生み出します。


より詳しい防水工事の考え方や事例については、こちらをご覧ください。

https://www.tsukaken-inc.jp/waterproofing




あなたのマンションの「今」を知ることが、安心な「未来」への第一歩

ご自身のマンションの屋上防水の種類を見分けるポイントから、セルフチェックの限界、そして専門家による診断の重要性までをご紹介してきました。「うちの屋上の防水は、一体何だろう?」という素朴な疑問から始まった探求は、単に種類を当てるクイズではありません。それは、自分たちが暮らす大切な資産の「健康状態」に関心を持ち、その未来を考える、極めて重要な第一歩なのです。


現状がよく分からないままでは、漠然とした不安を抱え続けることになります。しかし、その正体さえ分かれば、打つべき手や備えるべき計画がおのずと見えてきます。大切なのは、不明な点をそのままにせず、まずは「知る」ことから始める姿勢です。


人間が定期的に健康診断を受けるように、マンションも専門家による「建物診断」を受けることで、目に見えない部分の劣化や、将来起こりうるリスクを早期に発見することができます。それは、いわばマンションの「かかりつけ医」を見つけるようなものかもしれません。専門家の客観的な視点と正確な診断を通じて、初めて安心できる未来への具体的な道筋を描くことができるのです。


もし、ご自身のマンションの現状について専門家の意見を聞いてみたい、あるいは一度しっかりと調査してみたいとお考えでしたら、お気軽にご相談ください。

https://www.tsukaken-inc.jp/contact